地域起こしと日中友好交流

地域起こしと日中友好交流とを結びつけよう

横浜国立大学 村田忠禧

 中華人民共和国は今年、還暦を迎える。人の一生と違って、中国という国家はまだ青春真っ直中。七十年代末の改革開放政策への転換で国家発展の方向を見いだし、ぐんぐんと総合国力を増してきた。しかし二十一世紀に入り、沿海と内陸、都市と農村、富貧の格差拡大や環境破壊など、急激な発展に伴う負の側面も顕在化している。さらにアメリカ発の世界金融危機は、世界の加工工場としての発展モデルの見直しを余儀なくされている。中国はこれからどう進み、その内政・外交政策はどうなるのか、世界中が注目している。洞爺湖サミット、ASEM(アジア欧州会議)、金融サミット(G20)など昨年相次いで開催された国際会議における中国の存在感は、世界経済の先行き不安が深まる中、じわじわとその「重み」を増しつつある。
 中国の存在感は国際政治の舞台だけでない。
 教育、文化、スポーツ、旅行、労働、消費などわれわれの日常生活のさまざまな分野に及んでおり、思いもしなかったところで「中国」に遭遇するということを多くの人が体験しているであろう。GDPでドイツを抜き、アメリカ、日本に次ぐ地位を占め、IMFの予測ではあと二年もすれば日本をも抜くとのこと。しかしそれでも一人当たりGDPではまだ日本の十分の一にも達しない。日本の二十六倍もある国土、十三億の人口、五十五の少数民族を抱え、地域間の経済水準の不均衡が著しい中国を、日本人の「常識」で単純に割り切ることはできない。

 いま中国では科学的発展観が提唱されている。人間を第一とする、全面的で、調和の取れた、持続可能な発展を追求するものであり、イデオロギー優先の旧来の指導思想から、実際に生活する人々の暮らしを大事にする思想へと転換しようとしている。提唱していることは必ずしも実現していることを意味しないが、ともかくその方向に向かって進むことを呼びかけている事実は注目に値する。経済政策において外資導入と輸出依存型の発展戦略から、内需拡大、とりわけ低所得者向け住宅建設、高速鉄道網の建設、農村を中心とする内陸部のインフラ整備などに力点を置く方向に大きく転換しようとしている。旧来の知識では理解できない、新たな局面が生まれつつあるのだ。

 注目すべき事実がある。胡錦濤政権はその発足以来、中共中央政治局の集団学習活動を実践している。ある政策を決定するにあたり、まずその方面の専門家からの講義を受け、そのうえで政治局において討論し方針を決定していく、というプロセスを制度化しており、下部もそれを見習って同様な集団学習活動を行っている。これも科学的発展観に基づく政治指導の具体化といえよう。
 旧来の経験や知識では理解できない事態に遭遇した時、前進する意欲のある人は常に現実に向き合い、何が新しい変化であるのかを見つけ出し、対処すべき方策を考え出す。それを怠れば事態の変化を的確に把握できず、次第に現実から遠ざかってしまう。

 伸び盛りの中国を固定的な観点で見てはいけない。局部的、一時的な現象を絶対視することもできない。現実は常に具体的な姿でわれわれの眼前に登場するが、大きな流れ、全体との結びつきの中で理解しようと努めないと、脈絡のない断片的知識の集積にとどまってしまう。

 友好は易しいが理解は難しい、というのは一面の真理であろう。しかし真の友好は正確な理解があって始めて実現するものであり、理解を怠った友好は誤解と失望を生み出すだけである。
 中国理解を促進するための多種多様な学習活動を積極的に展開する必要がある。学習活動といっても上からのお仕着せではなく、中国で起こっている事柄をしっかりと直視することであり、そこで発生していることを具体的に、ただし断片的ではなく、総合的に、ただし観念的ではなく、正確に知ろうとする活動である。

 生き生きとした学習は現実に触れることから始まる。中国を理解するうえで最も効果的なのは自分の眼で中国を観察することであり、それを実現する手段として、研修と交流の要素を盛り込んだ中国旅行を積極的に推進することを提案したい。まさに「百聞は一見に如かず」。必ず生き生きした中国を体得できるであろう。
 しかし「一見」はあくまでも「一見」であって「一切」ではない。中国という巨大国家を部分的知見だけに頼って、「だから中国はこうだ」と決めつけてしまうことは「群盲象を撫でる」に等しい。それを防ぐためには個別的な事象と全体像とを有機的に結びつける作業が必要で、それこそが本当の意味での学習であろう。実体験と理論的学習、それを有機的に結びつけることをしていけば、中国にたいする理解は深まるし、生きたものとなるだろう。

 ここでもう一つ提案したいことがある。これからの日本の発展は国内だけに視野を限定していては難しい。アジア、とりわけ活気あふれる中国のエネルギーを積極的に取り組む方策を考えないと、日本は次第に小さな存在になってしまう。悲観することはない。
 日中間には地方自治体レベルでの友好都市関係がすでに330組存在もする。また大学間交流も盛んで、とりわけ中国からの留学生数は7万人(留学生の7割)にも及んでいる。日中間の密接な関係を示す他にも沢山ある。重要なことはそれらが有機的に結びついていないことである。
 そこで全国各地にある日中友好協会に代表される民間友好団体がこれら自治体や大学、さらには企業等とも協力しあって、「地域起こし」と「国際連携」を実現していけないだろうか。個別の力だけでは実現できないことも、連携し合うなかでそれぞれの長所を出し、短所を補いあえば、大きな成果を引き出すことができるはずである。しかも個々の地域だけでなく、全国的なネットワークを構築して連携していけば、巨大な成果を収めることであろう。

 今年は中華人民共和国建国六十周年。記念すべきこの年に日中友好協会が重要な旗振り役となってくれることを期待したい。

  日中友好協会『日本と中国』新春提言 2009年1月1日号