相互理解のための短期留学の勧め

相互理解促進のための短期集中学習の勧め

 村田忠禧
 
 中国の存在感が高まる一方、日本の政治的、経済的地盤の沈下傾向が指摘されて久しい。将来を担う若者の内向き志向はグローバル化時代にふさわしくない。中国語履修者の増大は、必ずしも中国への留学者数の増大に結びついていない。それどころか中国語を選択しながら中国に関心を抱かない学生が増える一方である。

 しかしこのような情況を作り出している要因は学生たちにあるわけではない。何のために外国語、とりわけ中国語を学ぶのか、中国語を学ぶことの大切さを自覚させる機会を提供せず、ただ卒業に必要として単位で学生を縛りつける日本の大学の外国語教育のあり方そのものに問題がある。
 私は大学で中国語を教えるなかで、どうしたら学生たちに中国への関心を高めさせることができるか、自分なりの試行錯誤を重ねてきた。現行の教育体制には手をつけない改善策に過ぎないが、一つの教育スタイルを見つけ出すことができた。

 それは通常の大学での学習と現地中国での短期集中的学習とを循環的に行なうもので、現実の中国を体験する機会を提供することを通して、学ぶ意欲を喚起し、発展させる方法である。以下にその概要を紹介する。

 対象者は初級学習者、つまり基本的に一年生とする。なにごとも最初が肝心である。学生交流と社会見学に重点を置いた研修旅行も実施したが、語学学習に重点を置いたほうが発展性、将来性がある。学生自身に問い合わせてみても、語学力レベルアップを望む意見のほうが圧倒的に多かった。
 それだけ学びたいという意欲ある学生たちがいるのだ。実際には初級学習者向けプログラムとともに、中級レベルの学生をも対象にした集中授業も並行して実施している。しかしそちらは自主的学習と位置づけている。そこまで手が回らない、というのが正直なところ。
 初級については集中授業の形式をとり、夏休みの3週間、中国の大学で午前中みっちり中国人教師に教えてもらい、最後に本学の教員が試験を実施する。及第点に達した学生は秋学期から、通常なら翌年度春学期に学ぶ中級の履修が可能となる。つまり夏休みを含む半期で一年分の授業を受講できるという学習スタイルである。

 春休みにもやはり3週間、中国の大学での集中的学習を実施する。実施校は夏休みとは異なる大学とし、中国の多様さを実感してもらう。また春の集中授業は履修単位にはカウントしない。夏の集中授業を受けた学生で引き続き春の集中授業にも参加するのもいるし、初参加のも、また三回目以上になるリピーターもいる。したがって学習レベルに応じたクラスを複数開設してもらうことになる。いずれにせよ日本の大学での通常の学習と現地中国での集中的学習の組み合わせは非常に効果的である。

 この中国語集中学習プログラムにはもう一つの特徴がある。それは中国側実施協力校には日本語科がある大学を選んでいることだ。午前中は中国人教員から中国語を学ぶとともに、午後には日本語を学ぶ中国人学生との相互学習、さらには共通テーマ(たとえば自分の故郷)を分かりやすく紹介しあう交流活動を行なっている。中国側にとっても日本の若者がまとまってやってきて交流できることは歓迎すべきことなのである。企業見学をも含む社会見学を行い、実際の中国を自分自身の眼で体験してもらう。
 彼らの中国イメージが大きく変わることは間違いなしである。われわれ日本側教員も、学生の中国滞在中に順繰りに訪中し、学生たちの学習情況を把握するとともに、中国側の授業への協力や講演を行なう。学生とともに教員の相互交流をも実施しているのである。

 今年度から新しい制度として、日本学生支援機構による「留学生交流支援制度(ショートステイ・ショートビジット)」がスタートした。1カ月以内の相互の学生交流活動に参加する学生に8万円の奨学金が支給される。「日本と中国とのハイブリッド型教育による人材育成プログラム」を申請し、認められ、実施中である。この支援制度でとりわけ歓迎すべきことは、これまでは日本側の派遣のみであったのが、中国側からの派遣受入れが可能になったことである。このためわれわれがお世話になる大学の学生たちを、日本に招いてお世話することができる。
 中国からの来日学生にたいしては、語学学習よりも日本社会を体験することを重視したプログラムを実施している。これにより相互交流の良性循環現象が発生しつつある。しかも中国側教員に引率の役割を担ってもらうことで、教員研修にもなるし、今後の双方の教育・研究面での大学間の協力関係が発展しつつある。

 解決すべき課題もいろいろある。宿泊費や渡航費の敷居が低くなれば、奨学金に依存せず、それぞれ自力による交流ができるようになるだろう。そのほうがはるかに持続的で発展的な交流が可能になるだろう。この面で政府や企業の積極的措置・支援を呼びかけたい。

  同学社 『TONGXUE』43号掲載 2012年2月

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